モデル建物法(小規模版)を活用した場合の省エネ性能向上のためのポイントは?計算事例を用いて省エネ判定員が解説

前回に記事では、同一の建物に対して以下の2つの方法で省エネ計算を実行しました。

  • モデル建物法(通常版)
  • モデル建物法(小規模版)

モデル建物法(小規模版)の計算は、モデル建物法(通常版)の計算結果より、

大幅に入力事項が減る一方、計算結果であるBEIの値は非常に大きくなり(性能が悪くなり)、

省エネ基準を満たさないことが分かりました。

今回の記事を読むと、以下の内容についてご理解いただけます。

  • モデル建物法(小規模版)の計算結果が悪くなる理由
  • モデル建物法(小規模版)を活用しても省エネ基準を満たす手法
  • 実際の改善例

モデル建物法(小規模版)の要点を押さえて、小規模非住宅の省エネ適判に要する手間を省力化しましょう。

モデル建物法(小規模版)の概要を知りたい方や、前回の記事を再確認したい方は、こちらからご確認いただけます。

=概要=

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モデル建物法(小規模版)とは

=前回の記事=

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通常版と小規模版の比較

計算結果とその分析

計算結果

まずはじめに、前回の計算結果をおさらいしましょう。

小規模版_計算結果 小規模版_入力内容1 小規模版_入力内容2

小規模版_様式SA

小規模版_様式SB-1

小規模版_様式SB-2

小規模版_様式SC-1

小規模版_様式SE

小規模版_様式SF

モデル建物法(小規模版)で一次エネルギー消費量を計算するとこのようになります。

省エネ計算をした建物の条件を知りたい方は、前回の記事をご確認ください。

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通常版と小規模版の比較

計算結果の分析

計算書の1枚目をご覧いただくと、建物全体の計算結果である「BEIs」の数値の下に、

設備機器の種類別のBEIの値が記載されていることがご確認いただけます。

小規模版_計算結果

この値は、設備機器の種類ごとに設計一次エネルギー消費量を基準一次エネルギー消費量で割った値となります。

そのため、これらの数値が大きいほど、その設備機器の性能が悪いことになります。

設備機器別のBEI値は、以下の通りです。

  • 空気調和設備:1.05
  • 換気設備:なし(単相の換気扇のみであるため、評価対象設備なし)
  • 照明設備:0.99
  • 給湯設備:2.94
  • 昇降機設備:なし
  • 太陽光発電設備:なし

空気調和設備と給湯設備の性能値が特に悪いことが分かります。

このことを踏まえて、性能値を向上させるためのポイントを解説します。

性能向上のポイント(外皮)

外皮(開口部・断熱仕様)に係る性能向上のポイントは以下の通りです。

  • 開口部の熱貫流率や日射熱取得率を評価する
  • 断熱材の熱伝導率を評価する
  • 屋根・外壁の熱貫流率を計算する

今回の計算事例の場合、図面の記載情報だけではどの手法で用いる値も確認できないことが分かります。

これらの手法については今後、別の記事でご紹介します。

非住宅建築物の外皮性能(断熱性能や日射熱取得)が一次エネルギー消費量に及ぼす影響は、住宅に比べると小さくなります。

また、熱伝導率や熱貫流率、日射熱取得率を調べるにはメーカーのホームページを確認する必要があったり、一定の時間を要します。

そのため、外皮に関する事項で性能向上を図ることは、手間の割には効果が少ないと考えます。

一方で、断熱材が無いような状態から断熱ありにするような改善であれば、一定の省エネ効果を見込めます。

例えば、外壁の代表的な仕様が「無断熱」から「高性能グラスウール断熱材」に変わる場合などが、これに該当します。

外壁の代表的な仕様について知りたい方は、こちらの記事でご確認いただけます。

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モデル建物法(小規模版)の外皮特徴

性能向上のポイント(設備)

外皮(設備機器)に係る性能向上のポイントは以下の通りです。

  • 空調熱源の定格消費電力・定格燃料消費量を評価する
  • 照明器具の配置と消費電力を評価する
  • 給湯機の定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を評価する

空調熱源の定格消費電力・定格燃料消費量を評価する

冒頭の計算事例で評価しなかった定格消費電力と定格燃料消費量を評価する手法となります。

これらの値は定格能力を確認する際、同時に確認できることが多いです。

そのため、定格消費電力・定格燃料消費量を調べる手間はあまり多くないと考えます。

前回記事の図面に基づいて定格消費電力・定格燃料消費量を入力すると次のようになります。

小規模版_様式SC-1_改善

この事例の場合、追加の入力個所は4になるため、改善前の計算と比べて入力の手間もほとんど変わりありません。

様式SC-1のみを改善した場合の計算結果は、以下の通りです。

小規模版_様式SA_空調改善

空気調和設備に係る性能値であるBEIs/ACの値が「1.05」から「0.87」に向上し、

これに伴って建物全体の性能値であるBEIsも「1.05」から「0.93」に向上しています。

例外もありますが、2台の空調熱源で0.10程度の性能向上が確認できました。

照明器具の配置と消費電力を評価する

冒頭の計算事例で評価しなかった器具の配置と消費電力を評価する手法となります。

器具の消費電力さえ分かれば、器具配置は図面で確認できることが多いため、評価は比較的簡単であると考えます。

前回記事の図面に基づいて定格消費電力・定格燃料消費量を入力すると次のようになります。

小規模版_様式SE_照明改善

様式SEのみを改善した場合の計算結果は、以下の通りです。

小規模版_様式SA_照明改善

照明設備に係る性能値であるBEIs/Lの値が「0.99」から「0.49」に向上し、

これに伴って建物全体の性能値であるBEIsも「1.05」から「0.88」に向上しています。

例外もありますが、3つの室の照明器具で0.20程度の性能向上が確認できました。

給湯機の定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を評価する

冒頭の計算事例で評価しなかった定格加熱能力と定格消費電力、定格燃料消費量を評価する手法となります。

定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量は機器の品番から確認することができます。

そのため、これらの性能値を調べる手間は増加することになります。

前回記事の図面に基づいて定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を入力すると次のようになります。

小規模版_様式SF_給湯改善

様式SFのみを改善した場合の計算結果は、以下の通りです。

小規模版_様式SA_給湯改善

照明設備に係る性能値であるBEIs/HWの値は「2.94」から変わっていないことが分かります。

これはプログラム上で設定された規定値と実際に設置される電気温水器の性能がほぼ同じであることを示しています。

一般的に電気温水器は定格加熱能力=定格消費電力となり、あまり効率の良い機器とは言えません。

そのため、定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量(=0)を評価しても、省エネ性能の向上は見込めません。

電気温水器のみが評価対象となる場合、定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量は規定値とする方が良いかもしれません。

一方で、給湯設備の種類などの要素により、定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量の評価が有効になるケースがあります。

ガス給湯機や電気ヒートポンプ給湯機を設置する場合がこれに該当します。

そのような場合の計算事例については後日、別の記事でご紹介します。

改善例

空調設備と照明設備、給湯設備の入力内容の改善をすべて反映させた場合の計算結果は以下の通りです。

入力シートの内容は、前回の記事や前述の内容と重複するため、入力結果の部分までを表示します。

小規模版_計算結果_設備改善

小規模版_入力内容1_設備改善 width=809

最終的な建物の性能値であるBEIsは「0.76」となり、基準値「1.00」を満たしていることが分かりました。

まとめ

今回は、モデル建物法(小規模版)を活用した場合の省エネ性能向上のためのポイントを解説しました。

  • 外皮(開口部・断熱)よりは設備機器の入力内容を改善することがお勧め
  • 空調設備は定格消費電力・定格燃料消費量を評価することで一定の性能向上が見込める
  • 照明設備は器具配置と消費電力を評価することで一定の性能向上が見込める
  • 給湯機は定格消費電力・定格燃料消費量を評価することができるが、電気温水器のみの場合は性能向上が見込めない

省エネ計算の依頼はたいら建築相談所へ

省エネ計算で不明な点・不安な点がございましたら、たいら建築相談にご相談ください。

以下の料金【※一例】で、省エネ計算を承ります。

  • 戸建住宅(外皮計算・一次エネ計算):6万円~
  • 共同住宅(外皮計算):5万円~
  • 非住宅(工場・倉庫):4万円~ ※モデル建物法、規模により変動
  • 非住宅(事務所・物販店舗等):6万円~ ※モデル建物法、規模により変動
  • 非住宅(病院・福祉施設等):7万円~ ※モデル建物法、規模により変動

以下のサイトから連絡を取ることができます。

まずはお気軽にお声がけください。

次回の記事

次回は、「モデル建物法(小規模版)で定格消費電力などを評価する場合における給湯機の種類による結果の違い」について解説します。

お楽しみに!

モデル建物法小規模版の性能向上のポイント
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