住宅の熱貫流率とは?初心者でもできる計算方法を省エネ判定員が紹介

「熱貫流率」という言葉を聞いたことはありますか。

熱貫流率は、住宅の省エネ性能や外皮性能を評価するために、

欠かせない要素となっています。

 

この記事を読むと、住宅の外壁・屋根・床等の部位における、

熱貫流率の計算方法を知ることができます。

 

  • 2025年:住宅に対する省エネ基準への適合義務化
  • 2030年:新築住宅の省エネ性能の平均値をZEH水準に引き上げ
  • 2050年:既存を含めたすべての住宅の省エネ性能の平均値をZEH水準に引き上げ

カーボンニュートラルに向けて実行される、国の様々な施策に対応するためにも、

省エネ性能の評価に必要不可欠な熱貫流率の計算方法を押さえましょう。

 

熱貫流率とは

「熱貫流率」とは、外壁や屋根、天井や床などを通過する、

熱の伝わりやすさを数値で表した指標となります。

熱貫流率U値

出典:建築研究所 平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)現行版

3-3_230725_v21.pdf (kenken.go.jp)

単位は「W/m2・K」で、U値とも呼ばれます。

 

熱貫流率の値は、低ければ低いほど、熱の移動を少なく抑えられ、

断熱性能が高い住宅になると言えます。

 

例えば外壁の場合、外壁を構成する複数の部材の断熱性能や組合せを考慮して、

熱貫流率を計算することになります。

  • 耐力面材(構造用合板、ダイライト等の耐震ボード)
  • 木材(柱・間柱等)
  • 断熱材(吹付け硬質ウレタンフォーム、グラスウール等)
  • 内部面材(せっこうボード等)

各部材の施工方法や、組み合わせにより、熱貫流率の値は増減します。

計算方法については、後程ご紹介いたします。

 

熱伝導率との違い

「熱貫流率」と似た要素として、「熱伝導率」という言葉があります。

「熱伝導率」とは、部材を通過する熱の伝わりやすさを数値で表した指標となります。

いずれも、熱の伝わりやすさを数値で表した指標となります。

 

これらの要素の最も大きな違いは、熱の伝わりやすさの対象です。

「熱貫流率」が「部位」を対象としているのに対し、

「熱伝導率」は部位を構成する「部材」を対象としていることが違いとなります。

それぞれの指標の違いついては、以下の表も参考にしてください。

名称(単位) 対象 概要
熱貫流率(W/m2・K) 部位(外壁、屋根、天井、床など) 部位を構成する部材の熱伝導率や隣接空間の仕様により計算できる、部位を通過する熱の伝わりやすさを数値で表した指標。

数値が小さいほど、熱が伝わりづらく、断熱性能が高い部位と言える。

熱伝導率(W/m・K) 部材(内装材、断熱材、木材など) 外壁や屋根、床を構成する部材を通過する熱の伝わりやすさを数値で表した指標。

数値が小さいほど、熱が伝わりづらく、断熱性能が高い部材と言える。

「熱貫流率」を計算するための1つの材料として、

「熱伝導率」が存在するイメージが分かりやすいです。

 

熱貫流率の計算が必要な手続き

住宅の熱貫流率の計算が必要になるケースは、2種類存在します。

  • 住宅の外皮性能を評価する場合
  • 住宅のエネルギー消費性能を評価する場合

以上の性能を評価する際、住宅の部位を通過する熱の伝わりやすさは、

欠かせない要素となります。

そのため、これらの性能の評価において熱貫流率の計算は必要不可欠となります。

 

住宅の外皮性能やエネルギー消費性能を評価する制度や手続きは、多く存在します。

主要なものは、以下のとおりです。

  • 住宅性能評価
  • フラット35
  • 長期優良住宅
  • 低炭素住宅
  • BELS

このように、様々な制度や手続きで、外皮の性能が評価されます。

 

熱貫流率の計算方法

住宅の熱貫流率計算

住宅の部位の熱貫流率を計算する様々は、主に3つあります。

それぞれの特徴を簡単にまとめると、以下の表のとおりとなります。

計算方法 概要 特徴
詳細計算法 住宅の部位の断面構成が異なる部分を細かく分けて、全ての部分について面積と熱貫流率を求めて計算する方法 ・計算結果が正確

・必要な情報が多く、計算が難しい

・オススメ度:☆☆☆

簡易計算法①

【面積比率法】

各部位の工法ごとに定められた熱橋部と断熱部の面積比率を用いて計算する方法

熱橋部:断熱材が充填できない柱や間柱部分

一般部:断熱材が充填されている部分

・最も主流となっている計算方法

・必要な情報が比較的分かりやすい

・オススメ度:★★★

簡易計算法②

【補正熱貫流率法】

断熱部の熱貫流率に、熱橋部分の熱損失を考慮した補正熱貫流率を加算する方法 ・鉄骨造のみで使用できる

・必要な情報が比較的分かりやすい

・オススメ度:★☆☆

この記事では、最もオススメ度の高い計算方法である、

面積比率法について、解説いたします。

 

面積比率法を用いた計算方法(オススメ度:★★★)

面積比率法とは、各部位の工法ごとに決められた熱橋部と断熱部の

面積比率を用いて計算する簡易的な熱貫流率の計算方法です。

以下の式により計算することが可能です。

部位の熱貫流率 U = ( 一般部の熱貫流率U × 一般部の面積比率a )

          +( 熱橋部の熱貫流率U × 熱橋部の面積比率a )

住宅性能評価・表示協会にてダウンロードできるEXCELシートにより、

比較的簡単に熱貫流率を計算することが可能です。

面積比率法

出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「申請補助ツール(各種計算書等)」

【 住宅の外皮平均熱貫流率及び平均日射熱取得率(冷房期・暖房期)計算書 (hyoukakyoukai.or.jp) 】※部位U値計算シート

 

面積比率法の計算に必要な情報と調べ方

面積比率法で部位の熱貫流率を計算するために、必要な情報は、主に4つとなります。

  • 一般部と熱橋部の面積比率 a
  • 屋内側・屋外側の表面熱伝達抵抗 R [(㎡・K)/W]
  • 部位を構成する各部材の熱伝導率 λ [W/(m・K)]
  • 部位を構成する各部材の厚さ d (m)

一般部と熱橋部の面積比率 a

軸組工法における各部位の主要な面積比率aは、以下の表のとおりです。

部位 工法 一般部の面積比率 熱橋部の面積比率
屋根 たるき間に断熱 0.86 0.14
天井 桁・梁間に断熱 0.87 0.13
外壁 柱・間柱間に断熱 0.83 0.17
大引間に断熱 0.85 0.15
根太間に断熱 0.80 0.20

これらの他にも、枠組み壁工法の場合等、工法に応じた多様な面積比率が存在します。

 

表で示したもの以外の比率は、建築研究所のホームページで確認することができます。

面積比率一覧

出典:国立研究開発法人 建築研究所「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)現行版」

3-3_230725_v21.pdf (kenken.go.jp) 】※ページ:3-3-4・3-3-5

計画する住宅の工法にあった面積比率を用いて熱貫流率を計算してください。

 

屋内側・屋外側の表面熱伝達抵抗 R [(㎡・K)/W]

屋内側・屋外側の表面熱伝達抵抗Rは、以下の表のとおりです。

部位 屋内側の表面熱伝達抵抗 屋内側の表面熱伝達抵抗

(外気に直接接する場合)

屋内側の表面熱伝達抵抗

(左記以外の場合)

屋根 0.09 0.04 0.09(通気層等に接する)
天井 0.09 0.09(小屋裏等に接する)
外壁 0.11 0.04 0.11(通気層等に接する)
0.15 0.04 0.15(床裏等に接する)

表で定めた他、界壁等における表面熱伝達抵抗の値も定められています。

表面熱伝達抵抗

出典:国立研究開発法人 建築研究所「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)現行版」

3-3_230725_v21.pdf (kenken.go.jp) 】※ページ:3-3-19

 

部位を構成する各部材の熱伝導率 λ [W/(m・K)]

良く用いられる部材の熱伝導率を以下の表に示します。

建材等の名称 熱伝導率λ[W/(m・K)]
コンクリート 1.500
天然木材 0.120
合板 0.160
せっこうボード(GB-R) 0.221
グラスウール断熱材 10K相当 0.050
高性能グラスウール断熱材 16K相当 0.038
押出法ポリスチレンフォーム断熱材 3種bA 0.028
吹付け硬質ウレタンフォーム A種3 0.040

 

表で定めたもの以外の熱伝導率は、建築研究所のホームページで確認することができます。

部材の熱伝導率

出典:国立研究開発法人 建築研究所「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)現行版」

3-3_230725_v21.pdf (kenken.go.jp) 】※ページ:3-3-14 ~ 3-3-19

 

 

建築研究所のホームページで確認ができない部材の熱伝導率は、

メーカーが発行している書類で確認することになります。

  • 自己適合宣言書
  • 品質証明書
  • カタログ

以上が、熱伝導率の主な確認書類となります。

 

部位を構成する各部材の厚さ d (m)

各部材の厚さdは、計画している寸法を入力していくことになります。

厚さdの寸法は設計図面への明示が必要になります。

断熱材や木材など、商品の企画によって厚さが決まっている部材もあります。

規格表やカタログ等で調査の上、厚さの間違いが無いように注意しましょう。

 

まとめ

この記事では、熱貫流率とは何なのか、概念と計算方法について解説しました。

要点は以下のとおりです。

  • 熱貫流率とは、部位(外壁・屋根等)を通過する熱の伝わりやすさ
  • 熱伝導率は、熱貫流率を計算するための1つの材料
  • 部位の熱貫流率を計算する方法で最も主流なのは面積比率法
  • 面積比率法はEXCELシートを活用して比較的簡単に計算することが可能
  • 必要な情報の多くは建築研究所のホームページで確認することが可能

住宅の省エネ性能や外皮性能を評価するために、

必要不可欠な要素である熱貫流率の計算方法をマスターして

さまざまな手続きや制度に活用していきましょう。

 

あわせて読みたい

建築物に必要とされてゆく省エネ性能 2017年、建築物の省エネ性能の向上を図るため、「建築物省エネ法」が誕生しました。 この法律により、省エネ基準への適合義務が課せられ、その対象は、徐々に拡大しています。 2025年:原則[…]

省エネ性能とは
熱貫流率とは
最新情報をチェックしよう!