給湯機の種類による定格加熱能力等を評価する効力は?計算事例を用いて省エネ判定員が解説

前回の記事では、モデル建物法(小規模版)における性能向上のポイントについて解説しました。

空調設備の定格消費電力・定格燃料消費量や、照明設備の器具配置・消費電力を評価することで

一定の省エネ性能向上が見込める一方、電気温水器の定格消費電力・定格燃料消費量を評価しても性能向上は見込めないことが分かりました。

今回の記事を読むと、どのようなケースにおいて、給湯機の定格消費電力・定格燃料消費量の評価が有効なのか、知ることができます。

無駄な労力を減らして効率よく省エネ計算をこなしていきましょう。

前回の記事や前々回の記事を確認したい方は、こちらからご覧いただけます。

=前回【モデル建物法(小規模版)における性能向上のポイント」=

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モデル建物法小規模版の性能向上のポイント

=前々回【モデル建物法(通常版)とモデル建物法(小規模版)の計算結果の比較】=

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通常版と小規模版の比較

モデル建物法(小規模版)における給湯機の評価

モデル建物法(小規模版)における給湯機の評価項目は以下のとおりです。

  • 給湯用途
  • 仕様の選定方法
  • 給湯熱源の種類
  • 給湯熱源の台数
  • 給湯熱源の定格加熱能力
  • 給湯熱源の定格消費電力・定格燃料消費量
  • 配管の保温仕様
  • 節湯器具

この内、「仕様の選定方法」の項目で、定格加熱能力、定格消費電力・定格燃料消費量を評価しない(規定値で計算する)ことを選択できます。

規定値で計算する場合、省エネ性能であるBEIsの値が基準値を満たさない場合があるため、

定格消費電力などの性能値を評価することをお勧めしたのが、前回の記事の内容でした。

 

しかしながら、電気温水器は定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を評価しても性能は向上しませんでした。

その理由は、給湯機としての電気温水器の効率が悪いことにあります。

一般的に電気温水器は、定格加熱能力と定格消費電力が同じ値になります。

一方で電気ヒートポンプ給湯機は、定格加熱能力より定格消費電力の値が小さくなります。

例えば、このような性能値の給湯機があるとすると、イメージしやすいのではないでしょうか。

機器名称 熱源の種類 定格加熱能力(kW/台) 定格消費電力(kW/台) 定格燃料消費量(kW/台)
EH-1 電気温水器 0.6 0.6 0
EHP-1 電気ヒートポンプ給湯機 6.0 2.0 0

このように数値で比較をすると単位消費電力当たりの加熱能力に差があることがご確認いただけます。

  • EH-1:0.6÷0.6=1.0
  • EHP-1:6.0÷2.0=3.0

このように単位消費電力当たりの加熱能力が大きいほど、給湯機の効率が良いこととなります。

効率が高いほど、省エネ性能が高いことにつながります。

そのため、電気温水器の効率が規定値による効率とほぼ同じであったため、能力値の評価が性能向上につながらなかったとも言えます。

比較するための計算事例

計算事例は、前回の記事で紹介した事務所を活用します。

この事務所の図面は、国の講習テキストで紹介されている小規模非住宅に記載されているものとなります。

平面図

小規模非住宅2階平面図width=885

出典:国土交通省 小規模非住宅建築物設計者用講習テキスト(図面)

https://www.mlit.go.jp/common/001627117.pdf

外皮仕様・設備仕様

小規模非住宅設備仕様

出典:国土交通省 小規模非住宅建築物設計者用講習テキスト(図面)

https://www.mlit.go.jp/common/001627117.pdf

前回の計算結果

小規模版_計算結果_設備改善

小規模版_様式SF_給湯改善

この計算書を活用して、給湯設備の入力シートのみを変更して計結果を比較します。

定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量の評価がどれほど有効なのか、給湯機の種類別で確認してみましょう。

ガス給湯機の定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を評価する場合

まずは、ガス給湯機の定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を評価してみましょう。

給湯機の種類別の性能値評価の効果を比較できるように、ガス給湯機のみが建物給湯熱源である想定で計算をします。

先ほど紹介した図面の内、以下の条件を変更して計算を実行します。

  • 便所(手洗い):ガス給湯機にて給湯(性能値は図面と同様、給湯機は1台)
  • 給湯室(ミニキッチン相当):便所とは別のガス給湯機にて給湯(評価対象外)

評価対象外となる給湯機について知りたい方は、こちらの記事でご確認いただけます。

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モデル建物法における給湯設備の評価方法

規定値の性能値で評価する場合

定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を規定値とした場合の計算結果は以下の通りです。

小規模版_計算結果_ガス給湯機_規定値小規模版_様式SF_ガス給湯機_規定値

給湯設備の省エネ性能の指標である「BEIs/HW」の値が「1.44」であり、

電気温水器のみを評価した前回の計算結果より低い(省エネ性能が高い)ことが分かります。

これより、前回評価した電気温水器より、今回評価したガス給湯機の方が給湯の効率が高いことが推察できます。

実際の性能値で評価する場合

定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を図面記載の値とした場合の計算結果は以下の通りです。

小規模版_計算結果_ガス給湯機_設計値

小規模版_様式SF_ガス給湯機_設計値

建物全体の省エネ性能であるBEIsの値こそ変化はないですが、

給湯設備の省エネ性能の指標である「BEIs/HW」の値は「1.44」から「1.24」に向上しました。

定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を規定値とした計算結果より給湯設備の省エネ性能が高いことが分かります。

このように、多くの機器はこのように規定値より設計値を入力する方が省エネ性能が向上することが推察できます。

電気ヒートポンプ給湯機の定格消費電力・定格燃料消費量を評価する場合

もう1種類、電気ヒートポンプ給湯機の定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を評価してみましょう。

給湯機の種類別の性能値評価の効果を比較できるように、電気ヒートポンプ給湯機のみが評価対象となる想定で計算をします。

先ほど紹介した図面の内、以下の条件を変更して計算を実行します。

  • 便所(手洗い):電気ヒートポンプ給湯機にて給湯
  • 給湯室(ミニキッチン相当):ガス給湯機にて給湯(評価対象外)

電気ヒートポンプの給湯機は図面に記載がないため、今回は仮で設定します。

  • 機器名称:EHP-1
  • 台数:1台
  • 定格加熱能力:6.0 kW
  • 定格消費電力:2.0 kW
  • 定格燃料消費量:0.0 kW

規定値の性能値で評価する場合

定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を規定値とした場合の計算結果は以下の通りです。

小規模版_計算結果_電気ヒートポンプ給湯機_規定値

小規模版_様式SF_電気ヒートポンプ給湯機_規定値

給湯設備の省エネ性能の指標である「BEIs/HW」の値が「1.10」であり、

ガス給湯機のみを評価した計算結果である「1.44」より低い(省エネ性能が高い)ことが分かります。

これより、今回のガス給湯機より、今回の電気ヒートポンプ給湯機の方が給湯の効率が高いことが推察できます。

実際の性能値で評価する場合

定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を図面記載の値とした場合の計算結果は以下の通りです。

小規模版_計算結果_電気ヒートポンプ給湯機_設計値

小規模版_様式SF_電気ヒートポンプ給湯機_設計値

建物全体の省エネ性能であるBEIsの値こそ変化はないですが、

給湯設備の省エネ性能の指標である「BEIs/HW」の値は「1.10」から「1.00」に向上しました。

定格加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量を規定値とした計算結果より給湯設備の省エネ性能が高いことが分かります。

まとめ

今回は、モデル建物法(小規模版)で定格消費電力などを評価する場合の給湯機種類による違いを解説しました。

  • モデル建物法(小規模版)では定格能力等の性能値を評価しない(規定値で計算する)ことができる
  • 給湯熱源の効率が高いほど、建物の省エネ性能は高くなりやすい
  • 性能値を規定値とする場合より、実際の設計値で計算した方が省エネ性能は高くなることが多い
  • 電気ヒートポンプ給湯機(効率高)、ガス給湯機、電気温水器(効率低)の順で、機器の効率は高い

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省エネ計算で不明な点・不安な点がございましたら、たいら建築相談にご相談ください。

以下の料金【※一例】で、省エネ計算を承ります。

  • 戸建住宅(外皮計算・一次エネ計算):6万円~
  • 共同住宅(外皮計算):5万円~
  • 非住宅(工場・倉庫):4万円~ ※モデル建物法、規模により変動
  • 非住宅(事務所・物販店舗等):6万円~ ※モデル建物法、規模により変動
  • 非住宅(病院・福祉施設等):7万円~ ※モデル建物法、規模により変動

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次回の記事

次回は、非住宅建築物の計算結果を再度出力する方法について解説します。

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